英国デイリー・テレグラフ紙の記者から、日本市場参入の課題について私の見解を聞かせてほしいと連絡がありました。以下は私のマニフェストです。日本に限らず、世界中のあらゆる市場に通じる原則だと確信しています。
1. コミュニケーション能力のある人にとって、言語は壁にならない。
国際的なコミュニケーションに長けているとは、共通言語を持たない相手のことも理解できるということです。母国語が同じ英語話者同士でさえ、誤解は日常茶飯事です。伝わったと思い込んだり、本来なら確認すべきところを曖昧なままにしてしまったり。
本当に必要なのは語学力ではありません。理解を確認する姿勢、的を射た質問を重ねる習慣、不明瞭な点があれば具体例で補う意識。そうした厳密さこそが重要です。日本でも世界中どこでも、そのような姿勢は稀であり、かつ普遍的に有効です。言語への不安を、コミュニケーションの基本を怠る言い訳にしてはなりません。
2. 市場検証は日本でも他のどこでも成功に不可欠である。自ら、徹底的に行うこと。
標準化されたレポートに頼ってはなりません。ジェトロや他の貿易促進機関に委ねてもなりません。自称・日本市場の専門家の予測は、健全な懐疑心を持って扱いましょう。たとえ専門会社を起用する場合でも、必ず自社でも並行して検証を行うことが重要です。
実際の見込み客に会宇野です。直接、自分の質問をぶつけましょう。現実の市場で仮説を検証し、何が通用しないかを確かめるのです。標準化されたレポートは、あなたの特定の製品や顧客とは無関係な一般的な前提に基づいています。そして貿易機関には、必ずしもあなたの利益と一致しない独自の制度的インセンティブがあります。あなたのビジネスを最もよく理解しているのは、あなた自身です。その理解を信じ、行動に移しましょう。
3. 成功に不可欠なのは卓越したリーダーであり、業界にコネのある日本人ではない。
業界経験と人脈を持つ年配の日本人男性を採用せよ。これが従来の通説です。顔が広い人。扉を開けることができる人。しかし私はこのアプローチが成功した事例を、一度も見たことがありません。
業界経験は、必ずしもビジネスの洞察力やリーダーシップ能力に直結しません。そして自分の人脈を最大の価値と見なす人物は、常に自身の人間関係をビジネスの利益より優先させます。あなたのビジネスのために正しいことをすることが、人脈に何らかの不都合をもたらすとなれば、彼らは躊躇します。人脈が勝ち、あなたのビジネスが負けるのです。
日本人であることは資格ではありません。日本人であることは、日本でのビジネスの専門家であることを意味しません。もし日本に関する通説通りのアドバイスがすべて実行に移されていたなら、セブンイレブン、コストコ、ミシュラン、BMW、アディダス、ゴディバは日本に参入すらできなかったでしょう。まして目覚ましい成功を収めることなど、到底なかったはずです。これらに共通していたのは、卓越したリーダーシップであり、単なる地域的なコネではありませんでした。
4. 日本人が日本について語ることが、必ずしも真実とは限らない。
そうしたアドバイスは、大幅に割り引いて受け取りましょう。地元の視点は有益です。しかしそれは絶対ではなく、「物事がずっとこうだった」という前提に色づけされていることが多いものです。「物事がこうあり得る」という可能性ではなく。どの市場においても最も重要なブレークスルーは、通説を疑う人々によってもたらされるのであり、それを伝承する人々によってではありません。
5. 要求の高い顧客は日本では当たり前であり、それは資産である。
日本は、消費者や顧客の要求水準が世界屈指の高さで知られています。品質基準は高く、凡庸さへの許容度は低い。これが多くの企業を、参入前から萎縮させます。
しかし優れた企業はその捉え方をまったく変えています。アディダスとミシュランはともに日本市場向けに特定の製品を開発し、その製品をグローバルに展開することに成功しました。なぜなら日本の基準を満たすことで、それぞれのカテゴリーで最高水準の製品が生まれるからです。日本でその基準をクリアできれば、どこでもクリアできます。それを活かしましょう。
6. 本国でのブランド力が、日本でのブランド力に直結するとは限らない。
日本国外でどれほど知名度があろうとも、日本でブランドを構築するための投資を覚悟してください。認知度は企業が期待するほど国境を越えて浸透しません。評判はローカルで獲得しなければならず、それには時間と存在感、そして市場への真摯なコミットメントが必要です。
7. 価値は普遍的である。それは日本においても同様だ。
優れた製品、革新的な技術、そして真に卓越したサービスがあれば、日本でも他のどこでも成功できます。フランス企業であるミシュランは、日本の主要な自動車・トラックメーカーや日本航空に最高水準のタイヤを供給しています。彼らは外国企業であるにもかかわらず成功したというわけではありません。卓越していたから成功したのです。
8. 日本で最も成功しているビジネスはシステムに従わず、それを覆している。あなたもそうすべき。
ファーストリテイリングはアパレル業界を根底から覆しました。ソフトバンクは一般消費者向け通信サービスのあり方を再定義しました。イトーヨーカド(現在の7&iホールディングス)はセブンイレブンで小売業に革命をもたらしました。スターバックスはコーヒーショップの概念を変えました。ホンダは創業期、自動車市場参入に際して省庁の指示を完全に無視しました。
これらの企業に見られるのは適応ではありません。それは破壊です。あなたは何を破壊しようとしていますか?その問いに明確な答えがないなら、参入の準備はまだできていないかもしれません。
9. 正しいことに最初から投資さえすれば、日本での足場づくりは他のどの市場とも変わらない。
最後に、ぜひ心に留めておいていただきたいことがあります。「日本」という言葉を、どの国名に置き換えても(アメリカ、ドイツ、ブラジル、ベトナムなど)上記の原則はすべてそのまま通用します。どの市場にも固有の事情はあります。しかしそれが決定的な変数であることは、めったにありません。決定的なのは、実行力です。
国を、戦略の弱さへの言い訳にしてはなりません。
日本市場参入について、ご自身の鋭いアドバイスをお持ちの方は、ご連絡ください。ぜひお聞きしたいと思います。
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