一番ビジネスを左右するのは、バリューよりも指針である

ある企業ではイノベーションをそのバリュー(共通価値観)として掲げ、社員にもいつもイノベーションと書いたものが目につくようにしてはありますが、実際には、R&Dのスタッフも含め、誰かがイノベーションを生み出す姿が見られる事は滅多にありません。

こういった状況が見られるのはこの会社に限ったことではありません。素晴らしいバリューを掲げているのにそのバリューに沿った行動があまり行われていないという企業は、よく見られます。私はここで企業紹介や壁に貼るポスターの中に載せるべきではなく、あまりにも当たり前なことであるために陳腐にさえ聞こえる「正直さ」や「誠実であること」といった目標の低いバリュー・ステートメントのことを言っているわけではありません。

私が指しているのはビジネスにとって特定の意味を持つようなバリューのことです。しかし、そのようなバリューであっても同じようなテーマに関する似たようなものになってしまうことになる傾向はあるので、やはり陳腐になってしまうことはよくあります。

同じようなテーマとはどのようなものでしょうか。私がよく目にするのは、この6つです。

  • イノベーションと創造性
  • 顧客中心であること
  • 個人個人のイニシアチブと大胆さ
  • 起業家精神
  • コラボレーション
  • エクセレンス

あなたの会社でもこのようなバリューを掲げているかもしれませんね。実際、これらのバリューの中の少なくとも一つが当てはまらないようなビジネスなど見られません。もしそのようなビジネスをご存知でしたら、私にメールして下さい。

Principles and values are not the same thing. Values tell you what is important, but it's principles that translate value into action. Click To Tweet

私のクライアントである会社の日本支社のCEOは、ある時、社の新しいビジネス戦略を鑑みると、現在のあるビジネスライン全体がそれに沿っていないという結論に達しました。そのビジネスは社の業績の半分以上に当たるもので、金額としても大きいものでしたが、彼はそのビジネスを切ってしまう、という大胆かつ勇気のある決断を下しました。

そこで大反対したのが幹部社員達です。彼らはそれが売り上げにもたらす影響についての可能性を大災害であるかのように語り、職を失うかもしれないスタッフ達に恐怖心を植え付けました。ヨーロッパ本社のCEOが一時的な損失はカバーしてくれると約束してくれていたにも関わらず、です。この会社の役員は全員大胆さという会社のバリューをセオリーとしては理解し、受け入れていたのですが、そのセオリーと実践が一致しないような状況で必要となってくるのは、指針です。

例えば以下のような指針が大胆さというバリューと同じくらいずっと頻繁、明確に示されていたとしたら、幹部社員達の反応は違っていた筈です。

どのようなビジネスでも、我が社が目指す戦略的な方向に向かうのに役に立たないようなものは、いくら利益のあるものでもキープするには値しない。

これは東京にある高級ホテルのゼネラル・マネージャーから聞いたことですが、ある時近くの会社から、ホテルのレストランで管理職10名が参加する朝食の予約をしたいとのリクエストがあったのだそうです。10人用の個室を用意して朝食を出すことなど簡単にできるホテルだったのですが、この電話を受けたスタッフは、予約は受け付けないことになっている、と即断りました。

ゼネラル・マネージャーは日頃から顧客中心の考え方をバリューとして説き、社員全員がそれを受け入れ、セオリーとしては理解していました。もしゼネラル・マネージャーが、このようなことも言っていたら、レストランで電話を受けた社員の受け答えも違っていたのではないでしょうか。

我々はお客様の要望に応えることができる。問題になるのは、どれだけ早く、そしてどう言った価格でそれを成し遂げられるか、ということである。

ある金融業界の企業のCEOの場合、彼は起業家精神と勇気いうものをバリューとして明確に、かつ何度も社員に説いていました。しかしながら、上級レベルのマネージャー達の中には、消極的で、自分たちが率いているビジネスのために自分から行動を起こすのではなく、常に上司からの指示を待っているような人もおり、彼はそれがビジネスの障害になっていると感じていました。これらのマネージャー達は、負うべきリスクがいくら低く取るに足らないものであっても、ビジネスリスクとして妥当なものであっても、それに失敗すれば自分のキャリアにも影響するような失敗の可能性を含むリスクと見ていたのです。危ない橋は渡るべからず、というのが彼らの姿勢でした。

そこでこのCEOは彼らを会議室に集め、以下のように告げました。

失敗をしないということと、成功とは別物だ。君たちが何か良いアイディアに基づいて行動を起こし、結局それが失敗したからと言ってクビにするなどということは絶対にしない。しかし、優柔不断であったり行動を起こせないような社員は、躊躇なく解雇させてもらう。

これはヨーロッパに本社を置く企業の日本支社の営業マネージャー達の話ですが、先日、彼らが顧客への請求書を偽造して、自分たちが使うための不正資金を隠匿していたことが明らかになりました。なぜそのようなことを行なったのかと聞かれた彼らからの答えは、契約を取るためには顧客のかなりの接待が必要であり、そのために自由に使える金額を用意しておかなければならなかった、というものでした。こういったやり方はもう何年も続いており、それもうわべは最終的には会社のためになるのだから、という建前を、営業マネージャー達も受け容れていたようです。

この会社は誠実さをはっきりとバリューとして据えています。もし以下のような内容もしっかり示されていれば、営業マネージャー達の行動も違ったものとなっていたでしょう。

どのような不正も正当化できるようなビジネス目標や意義は存在しない。それはその不正がどれほど小さいものに見えていても、同じである。

バリューはその内容と理由を示してくれます。そして指針はその方法とタイミングを示します。バリューは抽象概念であり、指針の方は具体的なアクションや態度についてのものです。バリューはクリアではあってもセオリー上のものですが、指針は何をいつやるかについて、明確に教えてくれます。バリューは、例えば私が最近聞いた「一体化したパワー」のように、スローガンのようになる傾向があります。一方指針は、以下のようにアクションについてである傾向があります。

他人からのアイディアに聞くに値しないようなものはない。それはどのような地位の人からのものであっても同じである。あなたにもビジネスを改善するためのアイディアがあるのなら、それをシェアするのはモラルという点から見てもあなたの責任である。それから全員で一緒に決断を下すことができるのだから。

指針はバリューを実現させてくれるものです。御社の指針はどのようなものですか。

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