Business people talking about feedback

フィードバックは相手のためのものとは限らない

一方的なフィードバックというのはそれを与える人のためのもので、与えられる人のためになることはまずありません。私はそのようなフィードバックは気に留めませんし、あなただって注意を払うべきようなものではないのです。 

あるビジネス及び個人消費者向けのテクノロジー機器を扱う有名な会社のCEOから、社のトップリーダーのチームのリトリートにおいて、スピーチを行うことと、戦略開発セッションをやることを依頼されたことがあります。そのリトリートの終了後、戦略担当であるこの会社の副社長に、一対一で、リトリート結果報告のミーティングを行いたいと言われました。

彼は私に、「あなたのスピーチの私の感想を聞きたいですか。」と尋ねました。私は特に聞きたいとは思っていなかったのですが、東京の中心部がいきなりマグニチュード10の地震にでも襲われでもしない限り、彼を止めることはできない、ということもわかっていました。

「今回のリトリートで色々やったことの中で、あなたのスピーチは一番評判が良くなかったんですよ。」と彼はちょっと気の毒そうな表情を浮かべて言い、それを裏付けるデータさえ用意していました。彼が次々見せてくれたパワーポイントのスライドには、リトリートの内容ひとつひとつについてのアンケート結果が示されており、1日目の夜の夕食、飲み会からCFOが行った財務関連事項の要約のプレゼンにわたり、それぞれに対する参加者間の人気度、不人気度が数字で表されていました。 

初日夜の夕食と飲み会には、高い人気を示すスコアが付いていました。CFOによるプレゼンテーションでは、前年度のぱっとしなかった業績や来期に実行される財政引き締め政策が含まれており、こちらはあまり人気がなかったようです。しかし、私のスピーチは、それよりさらに低いスコアがつけられていました。

「ほら!」と副社長はそのスコアを指差しながら、勝ち誇ったかのように言いました。「君のスピーチを高く評価した人は、誰もいなかったんだ。」

実際にはこれは正しくありません。私のスピーチを気に入ってくれた人は少なくとも一人はいたのですから。それはこの会社のCEOで、私はそれを彼から直接聞いたので間違いありません。彼はこのリトリート後のアンケートを受けていなかったのですが、それでも私にしっかりと報酬を支払ってくれました。こういったフィードバックは、私も重要視しています。

私のスピーチがそれ程不評であった理由ははっきりとはしませんが、大体の予想はつきます。私はリトリート前に顧客のふりをしてこの会社の商品の購入調査を行い、その時の経験についてこのスピーチで語ったのです。この実験についてはCEOに前もって提案したもので、彼も良いアイディアであると賛成してくれていました。 

ヨドバシカメラの有名な店舗に行った時には、この会社の製品だけを並べているコーナーに、社がプレミアム商品として押している商品の一つが見当たらず、その時のこともスピーチで話しました。その商品のことを店員に尋ねてみると、やる気のなさそうな彼は、私がリクエストした商品を取り寄せることができるかどうかさえせず、単に立ち去ってしまったのです。 

私はその後で会社の直販担当者に電話で問い合わせてみたのですが、その答えは、配達には少なくとも16週間はかかるというものでした。そこで私は、同社の他の商品の中で似たようなものを勧めてもらえますか、と聞いてみました。少なくとも似た商品が数種類はあるのを知っていましたから。すると彼はどのようなスペックのものを探しているのか尋ねてきました。私は、一般によくいるテクノロジーにはあまり詳しいとは言えない顧客であるかのように、スペックがわからないふりをしました。問い合わせ担当者は、どの商品モデルが私にとって最適であるかを見極めるために商品の使用目的を尋ねる、などということは、まるでしませんでした。結局この問い合わせがきっかけで商品が売れた、などということもなく、顧客(つまり私)は当惑したまま、という結果となってしまいました。

私はスピーチの中で、役員の方々に、素晴らしい商品があるにも関わらず、顧客サービスがなっていないというだけのために、毎月どれだけの売り上げ機会を逃していると思うか聞いてみました。誰もそれには答えてくれませんでしたが、その答えは明らかでした。聞く必要もない程に。

贈り物というのは、もらう人ではなく、あげる人のためのものである。そういった意味では、フィードバックは贈り物に似ている。 Share on X

この戦略担当副社長は、私のためにフィードバックを与えてくれたのでしょうか。そこは疑問ですが、彼自身はそうすることで随分すっきりしたようです。私も彼のフィードバックを無視することに何の罪悪感も覚えませでした。

「贈り物」の中には拒絶すべきものもある、ということです。

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