ビジネスにおけるプロセスがビジネス思考に取って代わってしまうと、そのビジネス自体が自身の最大の敵になってしまうことがあります。
日本にあるアメリカ資本の大手事業会社のCEOから、某日本事業会社の部門から物を購入する際の困難さについて聞かされたことがあります。彼らが売る気に欠けているから困難であるというわけではなく、その部門の得意先である日本政府の調達ルールをパスするために作られた不必要かつ面倒な官僚的プロセスの為だそうです。この日本の売り手の企業における品質コントロールプロセスは、実用的ではなく、このアメリカ企業が必要と考えるものよりずっと厳しく、その上に、その為にかかる時間やコストは大きなものでした。いかに妥当でないと思われるプロセスであっても、それにちゃんと従うことが大切と考えられていたのです。
自身をその最大の敵にしてしまうというのは、日本の企業に限って見られるものというわけではありません。ある企業のCEOが東京にある高級有名ホテルに多数の役員たちを集めての朝食ミーティングの予約を入れようとした時、そのホテルのスタッフは、当該レストランが予約をとらないということを理由に、その予約も受け付けませんでした。何もそのホテルで個人による朝食イベントを開催するだけのキャパシティーがないというわけではなく、単にそのスタッフがそれを受け付けられるということさえ思いつかなかったわけです。そのような経験を一度すれば、この企業が将来このホテルにそれ以外の理由でサービスをお願いしたりすることがあるでしょうか。朝食サービスさえ受け付けてもらえなかったホテルなのですから、そのようなことはまずないでしょう。
ラッキーなことにこのケースでは、結局ホテルのマネージャーが気づき、便宜を計ることができました。彼もこれをきっかけに、通常から自分の知らないところでスタッフが断ってしまったビジネスがどれだけあるのか、そしてそのうちの何人がこの先自分のホテルにビジネスを絶対回してくれることがないか、考えさえられたことでしょう。
あるヨーロッパの消費者向け製品を販売する企業では、商品数とタイプが彼らの予測を上回った場合、企業顧客からの注文を断っていました。プラスにしろマイナスにしろ、営業チームの予測が合っていなかった場合、彼らには文句が来るような仕組みになっていたからです。それは該当商品が在庫にあろうがなかろうがです。このルールは、製造能力の再効率化と余分な在庫の減少を目指したものだったのですが、その導入はビジネスの考え方の逆を行ってしまう結果となってしまったのです。CEOがこのことに気付いた時、彼は考え方、そしてルールも変える必要があると気づきました。
日本の企業、そして海外の企業共に、考え方に導かれるプロセスが必要なのに、単にプロセスに導かれたやり方で動いているところが多すぎます。プロセスに導かれた考え方をしていると、そのプロセスを遵守することが目標となってしまいます。そのような中では、顧客のためになることは、後からついてくるか、ひどい場合では、考えられることすらありません。考え方に導かれるプロセスは、成功するには何が必要か、というところから生まれます。つまりビジネスの結果がそのゴールなのです。そのようなプロセスを実行するために、全てのプロセスを無視しなければならない、というわけではありません。しかしながら、プロセスとは代替可能であり、条件のついたものです。マネージャーやスタッフが、様々なオプションの中から最適なビジネス結果を出せると思われるものを選ぶことができるべきものなのです。
考え方主導のプロセスにおいては、プロセスの遵守より、指針の遵守が重要になります。例えば、上記の高級ホテルのケースでは、その指針は「どのようなお客様のリクエストもお受けできる。時間とコストに違いが出るだけのことである。」となります。また、消費者向け商品ビジネスの場合では、「予測に関わらず、在庫がある限り注文をお受けできる。」ですね。また工業製造企業の指針であれば、「品質管理は、自社の基準と顧客からの条件によって行われる。」となります。
あなたのビジネスでは、プロセス主導の考え方で回っている部分はありませんか。そのせいでビジネスチャンスを失っていたり、成長の可能性を制限してしまってはいませんか。
The first step in transitioning to a thinking-driven process is a clear articulation of the principles. Share on X
あなたやあなたのスタッフは、自社の指針を明確に示すことができますか。