CEO職から去るタイミング

以前、グローバルヨーロッパ企業の日本子会社のCEOに、仕事を辞めるつもりだと打ち明けられたことがあります。彼はすでに積極的に面接を受け、次の仕事を探していました。数年前に彼はその日本子会社で大きな成功をいくつか収めてはいたものの、企業自体の官僚的なやり方が、自分の能力の妨げとなっていることも感じていました。

彼の最初の面接はうまくいきませんでした。報酬が低すぎましたし、また企業文化も自分に合っていないと感じられました。給料が納得できる額であったとしても、もし採用されたとしたら彼は結局そこでうまくやることはできなかったと思います。給料だけが大切というわけでは決してありません。しかしながらこのCEOがこのタイミングで今の仕事を辞めようとしていることに関しては、自分にとって不利だと言えます。

逆説的に聞こえるかもしれませんが、辞めるのに一番良いタイミングとは、自分が一番良い状況の時なのです。つまり自分が素晴らしい結果を出し、ビジネスを改善したタイミングです。そうすればあなたの後任者は、あなたが解決できなかった古い課題ではなく、新しいビジネス課題に取り組むことができます。もちろんあなたが勤務初日から後任者の育成に取り掛かることも大切です。そうすれば会社を去ると決めた時、会社に迷惑をかけることなくそうすることが可能になります。曖昧な結果しか出せなかった後やビジネスが不安定な状態な時に退社することは、それが自分のせいであろうがなかろうが、CEOの立場にいる人にとって決して好ましいことではありません。

しかしながら、素晴らしいビジネスリーダー達でさえ、仕事が非常にうまく行っている時に職を離れても、自分が成長をし続けることができるような次の仕事を見つけることがなかなかできないこともあります。私の知り合いである非常に才能のあるCEOの方も、自分の仕事が最高潮の時に退職しましたが、自分が満足できる次の職を見つけるのに1年以上を費やしました。彼は自分にとって重要なことに関して妥協しない人です。彼は日本でビジネスのトップにいた時もやはり同じように妥協することはなく、そのおかげでそのビジネスに大きな成功をもたらすことができたのです。

自己を売り込もうとする時に積極的になるのは良いことですが、仕事を選ぶ時には忍耐強く、賢明であることが重要です。ある非日本人の日本駐在CEOによると、外資系企業の日本子会社のCEOというタイトルは、誤解されやすいものなのだそうです。戦略的な裁量権やビジネスのためになることに関する予算権限が与えられるCEOもいれば、上層部からの指示を実行するだけで、ほとんど裁量権も予算権限もない、営業・マーケティングディレクターと変わらないCEOもいます。

ですから肩書きやブランドには騙されないでください。必要な権限も与えられないような職に就いたりすれば、将来の昇進の道も閉ざされてしまいます。

もし自分の役割に満足していない場合、あなたの選択肢は3つです。我慢して黙って辛抱するか、変えようと努力するか、もしくは辞めるかです。実際には、後者2つの選択肢しかないと言えるでしょう。

先に述べた転職を考えているCEOの話に戻りましょう。私が彼にしたアドバイスは、今は新しい仕事を探す時ではないということ。そして次の仕事のために、人脈やオプションを育成し続けながら、現在のポジションにいる間に自分のビジネスを成功させることを目指すべきということです。そうすることで、彼の価値と選択肢はますます高まる筈です。

「でも、私には業績不振のスタッフを解雇したり、取引条件を交渉したりする権限さえないんですよ。」と彼はこぼしました。

私は聞きました。「では、自分のやりたいことをやらせてもらえるのであれば、今の仕事を続けたいと思いますか。」

「続けたいです。」彼は躊躇することなく答えました。

それに私はこう答えました。「上司と話してみるべきですよ。あなたがビジネスを成功させるために必要なものを彼に伝えるんです。条件も。すぐに同意してはくれないかもしれませんが、今すぐ働きかけ始めて下さい。あなたは素晴らしい目標を持っているし、それはあなたの上司の考えにも沿っているんですから。あなたはそのための手段を相談しようとしているわけですから、何の問題もないですよ。」

「もし彼が拒否したらどうするんですか?関係を損なうことにはならないでしょうか。」とCEOは尋ねました。

「心配することなどありませんよ。あなたは既に辞める準備ができているのでしょう。でも、彼があなたの要求を断固として拒否することはないと私は思いますよ。あなた達には共通の利益が十分あるんですから。」

本当に成功しているCEOの方々は、自分自身のルールで人生を生きています。このCEOも同様です。彼らは成功するためには、恐れることなく自分が必要なことを要求します。彼らは権力に臆することなく真実を語ります。彼らは「NO」と言われても、それで引き下がりはしません。「その答えでは不十分です。」と言うことに何も問題はないのです。上記のCEOも大丈夫だと思います。

あなたはどうですか?あなたは自分自身のルールで人生を生きていますか。それとも他人のルールに従うような人生を送っていますか。

私があなたにどちらをアドバイスするかをわざわざ言う必要はありませんね。

Join the Discussion

jaJapanese