私は以前、オーストラリアに移住することで、一生涯持っていたクモ恐怖症を克服することができました。シドニーで飛行機から降りた瞬間、以前のひどい恐怖症が単なるクモ嫌いに変わったのです。
自分自身を変えることなく、恐怖症を克服できたわけです。馬鹿げた話に聞こえるかもしれませんが、実際、どのようにすれば自分もそのような変化を経験できるだろうか、と私に聞いてくる人が多くいます。
最近、営業担当者達のグループにコーチングをしていた時、中の1人に「Cレベルのエグゼクティブバイヤーとのミーティングを取り付けるにはどうすれば良いか」と尋ねられました。通常このセールスマンは、まずレベルの低いゲートキーパーに会って提案書を渡し、それを彼、彼女の上司に見せてもらって最終的な決断を待つ、というやり方をとっていました。過去には彼がそのゲートキーパーに上司を紹介してもらおうとしたこともありましたが、毎回、そのリクエストは却下されていました。
私は彼に、ゲートキーパーを避け、Cレベルの役員と直接コンタクトをとる方法を、いくつか説明しました。そして彼の同僚達も含めてシナリオを作成し、ビジネスミーティングを取り付けるためにCレベルの役員とどのような会話をすればよいかをロールプレイしました。それからミーティング自体のロールプレイも行い、交渉や商談を成立させる方法も実演を通して学んでもらいました。
しかしその営業担当者はそれに不満を感じ、私が彼の時間を無駄にしたと非難しました。彼が言うには、日本ではそのようなやり方は通らない、と言うのです。これまでに他のセールスマンが日本で実践し、成功を収めてきた例が数多くあるにも関わらずです。
彼は、とにかくゲートキーパーを通してエグゼクティブバイヤーに紹介してもらう方法を教えて欲しいと強く言ってきました。彼の頭の中では、日本ではそれがエグゼクティブと会える唯一の方法なのです。
「そのようなやり方が成功したことはない、とおっしゃったのはあなたですよね。」と私は言いました。「そう聞いたので、私はいくつかの違った方法を説明させていただいたのですが。」
それを聞いた彼は、現実を見ろ、という言葉を残して、部屋を出て行ってしまいました。
残った営業スタッフたちは、彼の極端な態度に戸惑いながら互いを見回しました。やがてそのうちの1人が私を見てこう言いました。「スティーブ、私は興味を持ちました。他のやり方など考えたこともなかったので。もっと教えて下さい。」
ずっと信じていたものが存在しなくなった時、そこに残るのは現実です。
それがどうしても受け容れられない場合は、オーストラリアに引っ越すという手もありますが、私にはそれが解決策とは思えません。