CEOの方にどうすれば社員のモチベーションを上げて変化をもたらすことができるかを聞かれることがありますが、それは焦点を当てる場所を間違った質問です。モチベーションによって誰かに行動を起こさせることは可能ですが、そこから結果を出すところまで持って行かせることができるのは、モチベーションではなく、自制心だけです。
ここで私が言う自制心とは、例え目前にペナルティーが見えていたりすぐに見返りがあるかどうかが不確かな場合であっても、より良い将来を築くための態度を貫く個人個人の強い意志のことを指しています。例えば多大な犠牲を払うことが必要とされ、それでもその結果は保証もされていない中でオリンピックの選手になるには、自制心が必須です。目標を下げるか、或いは目標を立てることさえしないほうがずっと楽に決まっています。また、営業チームが消費者からの相談を受けるやり方を取り入れた新しいビジネスモデルに移行する場合でも、自制心は必要です。もしこれまで何十年間も取引をしてくれている卸業者に対してずっとやってきたやり方で営業を続ける方がずっと楽で、結果も予想し易いに決まっています。
以前私は、クライアントの企業で数人のマネージャーのコーチングを依頼されたことがあります。皆さん、コーチングを受けることにとても意欲を燃やしてくださっていました。それでも彼らが心地良いと感じている以上のことをやって頂こうとし始めた頃に必要となったのは、その意欲ではありませんでした。そこからも私のサポートを受け容れて成長し続けてくれたのは自制心を持った方々だけだったのです。モチベーションしか持ち合わせていなかった方々は、私がサポートしようとしても、躊躇し、行き詰まってしまいました。モチベーションだけでは乗り越えられない状況では、自制心がその代わりとなるのです。
組織レベルの改革というのは、大体同じものです。 企業内の改革をモチベーションによって始めることはできる。しかし、そこから結果を出すまでには組織のサポート、そして個人個人の自制心が必要となる。 Share on X 楽天市場のCEOである三木谷浩史氏は、英語を会社の共通第一言語とし、日本のオフィス内でのコミュニケーションも英語にしました。そして当初の社員のモチベーションは決して高いものではありませんでした。しかしそこで一番重要となったのはモチベーションではなかったのです。社員はそれぞれ、この新しい規則に沿うためのやり方を選ぶ自由が与えられており、会社からのサポートもありました。例えば就業時間内に英語を学びたいという社員もいたのですが、仕事をちゃんとこなすことができるのであれば、それも認可されました。このような状況で英語を学ぶことは難しくないはずですが、それでも個人個人の自制心は必要です。
三木谷氏によれば、8割の社員は必要であった英語の基準を満たすことができましたが、2割は失敗に終わりました。2割の社員を失うことは、社にとって痛手だったでしょうか。私はそうは思いません。成功した8割の社員は、モチベーションが高かっただけではなく、自制心も持っていたのですから。この次の改革が実行される時にも、大切になってくるのは自制心です。
モチベーションそのものは、いつか消えてしまいます。モチベーションに関するスピーチを聞いただけで、後々まで続く成果を出すことができることなど滅多にないのは、そのせいです。一方、自制心というのは筋肉のようなもので、個人個人が通常から使うことで強化され、それをサポートし成功に導いてあげるためのツールを提供してあげられるのは、リーダーであるあなただけです。
しかし、あなたが社員や他人の代わりに自制心のトレーニングをしてあげることはできません。一人一人の自制心というのは、自分で自らに課すものなのです。周りで何をやらせても、それは無理強いにすぎません。リーダーとしてあなたにできる最良のことは、彼らが自制心を鍛えられる自由を与えてあげることだけです。
ですから、モチベーションの高い社員に改革に取り組み結果を出すところまで行って欲しいのであれば、自制心を鍛える自由を与え、またそれを責任を持って行うことを、あなたの企業文化に取り入れてください。単なる「モチベーション」を追加するのではなく、社員が成功するためのサポートを供給し、そして邪魔をしないことです。
本当に役に立つのは社員のモチベーションをあげることではありません。自分でモチベーションを上げられる人材を育て、それができるだけの自制心を持たない社員は解雇することです。