Businessmen negotiating

理不尽であれ

戦略とは未来を作るためのものであり、未来を予想するものではありません。まず将来のビジネスについての大胆なビジョンをはっきりさせるところから始めて、そこに行き着くために何をすれば良いかということを遡って考えて、戦略を立てていくのです。現在のビジネスを理解することによってこの先のことを考えていくというのは、戦略ではありません。そのようなやり方をすれば、単にビジョンが妥協されてしまう可能性が高くなります。先に述べた方法のみが、本当に向かっていきたい方向へと誘ってくれるのです。

ある日本の中小企業のCEOは、私がそれまでお仕事をご一緒させていただいたどのクライアントよりも、大胆なビジョンを持っていました。それは昨今日本中で見られるようになってきた、業界の改革につながるような戦略で、彼も自分の業界においてそれを実現させようと、その準備を行っていました。その戦略は業界のビジネスモデルをも変革し、彼の会社を顧客に対して有利な立場に持っていくもので、ライバルである大企業にも実現が難しいと思われるものです。小売業が圧倒的に牛耳り、エンドユーザーとの関係もコントロールしている何十年も続いてきた現在のシステムも、過去のものにしてしまえるでしょう。彼のビジョンは、業界を揺るがせ、力関係を大きく変え、それまでには考えられなかったようなやり方でエンドユーザーに恩恵をもたらすことができます。これこそが戦略であり、少なくともそうあるべき姿なのです。 

Despite all this boldness and audacity when talking about his vision, the same CEO became meek and tentative as he considered what his business and industry are like now. His strategy will likely anger a lot of people in the industry whose businesses’ real value-added has been questionable for at least a decade, and make nervous the employees who don’t have the stomach for such audacity.

彼がまず実行を考えたプランはとんでもなく時間のかかるものでした。彼はまだ学校に通う子供がいるくらいのどちらかというと若いCEOですが、それでもそのプランを実行してうまく行ったとしても、彼が描くビジョンが形を取り始める頃には、とっくに引退の時期も過ぎてしまっているでしょう。私は彼がどうしてそこまで慎重になっているのか、聞いてみました。 

彼は自分がやりたいことが実現不可能な理由を、ずらずらと並べてくれました。例えば、自分が目指す方向を拒絶されると思われる社員の存在、これまで頼りにしてきた販売業者に急にビジネス関係を解消されてしまう可能性、新しいビジネスモデルにおいて顧客をサポートするのに必要なインフラの不備、営業チームの能力向上の必要性、といったものです。 

これらは確かに考えられるリスクです。しかしどれも彼の戦略を無価値にしてしまうほどのものではありませんし、どうしても解決できないものという訳ではありません。このCEOは自分では単に想定されることについて考えリスクを最低に抑えようとしていたつもりでしたが、実はその逆のことを行っていたのです。そのような躊躇いがちなやり方を行っていれば、もっと素早く行動を起こす気のある他の誰かに邪魔をされてしまうばかりか、自分のやろうとしていた戦略を横から盗んでいかれる可能性もあります。

ビジネスにおいてやたら注意深くなることと、賢明な慎重さを持つこととは、同一ではありません。注意深いだけの人は、戦略目標について妥協してしまうことで、リスクを回避します。目標を低く設定すれば成功する可能性が高くなる、という訳ですが、そうすると結局もっと積極的な人から不意打ちをかけられるような状況に追いやられてしまいます。 

しかしここで言う慎重さの方は、粘り強いものです。慎重な場合は、仮定事項が間違っていた場合のためのプランも用意しておくことでリスクを減らします。そのために戦略目的について妥協するなどということは、決して行いません。

This distinction matters because building strategy from the present engenders caution. It is easier to move the goal post when it looks difficult to get there. Working backwards from the future engenders prudence because all paths lead back to where you want to go.

私はこのCEOを説得し、とりあえず現状についての懸念は忘れて、私のアドバイスを聞いて欲しいとお願いしました。そして一緒に彼の将来についてのビジョンを基にして、戦略を立てました。すると戦略を作成し始めて20分も経たないうちに、彼は以前は非現実的と思われていたものが、合理的に達成可能なものに見えてきたと私に告げました。私もそう思います。これで次のステップに移ることが可能となりました。

成功のための戦略とは斬新、かつ大胆であるべきだ。もしそういう考えに基づいていないビジネスは、そのうち大胆な戦略を持つ他のビジネスに取って代わられてしまうだろう。 Share on X

現在ビジネス戦略の開発を行っている最中の方々には、大胆さ、斬新さを忘れず、またご自分の目標に関しての妥協をしないよう、アドバイスさせていただきたく思います。まず将来の目標を立て、それを基に戦略を立てましょう。成功したいのであれば、注意深くなるのではなく、慎重になりましょう。 

それから是非とも理不尽でいて頂きたいと思います。本当に理不尽になっても良いのはリーダーだけですし、本当に素晴らしい戦略というのはいつでも理不尽なものなのですから。

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