生まれついてのリーダー、といった人々は確かに存在しますし、実際私も何人かそのような人にお会いしたこともあります。しかしほとんどの人々は、学びを通してリーダーシップを身につけます。一般のスタッフ或いはマネージャーがリーダーという立場に移行する為には、それまでの思い込みや誤った概念を捨てることが必要となります。その中でも最もよく見られるものを下に5つ挙げ、それぞれについての私からのアドバイスも記しましたので、ご参考下さい。
1. あなたの役割は周りから好かれることではない。結果を出すことである。 人から好かれることや、好感の持てるリーダーであることには、何の問題もありません。実際、本当にできるリーダーは普通、人に好かれるものです。しかし、必要とわかっている変革を行う際、その改革の人気度やスケールに関わらず、まず周りから好かれることが必要だなどと考えるのは間違っています。私がコーチングさせて頂いた中間レベルのマネージャーは、リーダーとして嫌われてしまうことを恐れるが為に、社員の何人からかの大反対を受けていた改革をなかなか実行できないでいました。この会社では人事が定期的にいわゆる「従業員エンゲージメント」アンケートを行って、その中で社員が直接の上司のことをどう思っているかを聞いており、これは勤務査定にも響くものでしたので、リーダーが部下から嫌われることを恐れる一因ともなっていたようです。このマネージャーも消極的で、改革の実行を遅らせるか、実行方法をソフトなものにする方法を模索していました。この改革はビジネスの成功にとって戦略的に必要なものであるにも関わらず。もちろんこれはビジネスの業績に響きますし、結果を出すことができないままでいるマネージャーの下で働きたいと思うような社員はいません。また、上のリーダにとっても、部下に対して力を持たないようなマネージャーなど、欲しいと思わないでしょう。この改革に反対していた人々は、少なくともその時は喜んでいましたが、一方で彼の決断力のなさや消極的な態度はできる社員たちに不満を抱かせ、もっと学びを与えてくれるようなマネージャーのいる別の部署への移動を希望したり、また転職をするような人まででてきました。改革のために人に好かれることを重要視してしまうと、実は結局みんなからそっぽを向かれてしまう結果を導いてしまうのです。
2. 賛同を得る必要はないが、プロとしての姿勢は必須である。 上記の好感と同様、多くのマネージャー達はとにかく全員から賛同を得なければ改革を行なわないということを、重要視しすぎています。彼らは全員から賛同してもらえない限り改革の実行は無理だと考えているからなのですが、それはまるっきり間違っています。ご自分の経験を振り返ってみてください。あなたも自分では十分の納得のいかない自分の上司の決定事項を実行するように言われたことがあるかと思いますが、それでも実行したのではありませんか。そして時間を割いてこのブログを読んで下さっている事を考えると、きっとあなたはいつでも妥協を許さないプロ意識の持ち主でしょうから、それを実行する際にも十分なやり方をなさったであろうと想像します。もし自分が賛同できるような事項であれば、更に上手に実行できたかもしれませんが、どちらにせよ、実行したという点では同じです。ひょっとしたら、その結果を見て、実はその決定事項が正しいものであったと気付かれたかもしれませんね。うまく遂行し望んでいた結果を出す為に、周りからの賛同を得ることが必要になることなど、滅多にありません。一方で、得られるかどうかもわからないような全員からの賛同を重視する故に改革を遅らせてしまうと、ビジネスの業績にも響きますし、すでに自分がやろうとしている改革に賛同してくれている、つまりあなたがサポートし自分のチームに止める努力をするべき社員たちが離れていく原因ともなります。殆どの社員はプロ意識を持っています。そして自分が賛同できないような決断でも、それを受け容れることが必要な場合もある事を理解しています。それがわかっていないような社員は無視しても良いのです。大人というものは自分で考えて賛同するかどうか決めるわけで、それにかかる時間はたとえ同じ内容のものに対してでも、人によってそれぞれ異なります。だからといって、あなたが行動を起こしてはならないというわけではありません。意見の相違があっても悪いわけではありませんが、社員にプロ意識を持ってもらうことに関しては譲歩すべきではありません。
3. 他人にモチベーションを与えることはできない。自分からやる気を起こさなければならないのだ。 私がコーチングをしていたあるマネージャーは、彼が何を言おうと何をしようと、どうしてもやる気を起こしてくれない部下が何人かいる事を、自分のせいだと感じていました。そして私に、どうすれば彼らがやる気を出してくれるか、アドバイスを求めてきました。私の答えは、モチベーションを持ってもらうための努力をする事を止めるというものでした。このマネージャーはすでにできる事をやったのですから、あとは、この部下達次第なのです。 マネージャーとして他人のモチベーションをコントロールすることなど無理である。モチベーションとは自分の中から生まれてくるものであり、リーダーであるあなたができるのは、障害になっているものを取り除いてあげることだけである。 Share on Xこのマネージャーは時間を割いて目標の説明をしたり、アドバイスやコーチングさえオファーしたり、プロセスを合理化したり、必要であれば外部にコーチングやトレーニングを行うことまで提案しました。リーダーとしてできることとしては最高の内容だと思います。モチベーションの上がらない人々は放っておけば良いのです。そのような社員のモチベーションはあなたの責任ではありません。モチベーションを持っている社員をサポートすることが、あなたのやるべきことなのです。そうのような社員のために、あなたの努力、エネルギー、時間を使うことにフォーカスするべきです。
4. 自由を与えることとオーナーシップを与えることとは同じではない。しかし管理権を与えれば、その両方が可能となる。私がコーチングをさせて頂いていたあるマネージャーは、自分の部下に仕事のやり方を自分たちで決めるという自由を与えている、と私に語ってくれました。しかし実際に彼女が与えていたのはオーナーシップだったのです。現実には、オーナーシップとは、社員の一人一人が自分個人の行動によってビジネス結果に違いをもたらす能力のことです。行動の自由はオーナーシップの一部ではありますが、その社員が何をすればわかっていなければ、それはビジネス結果を必ず出すことにはなんの役にも立ちません。責任がクリアであなたにアドバイスを請うことができる状況である限りは、行動の自由を与えても問題はありません。しかし、アドバイスを請うことはあなたからの指令を求めることとは異なりますし、社員に好きなだけあなたから何をするべきか教えてもらう権利を与えるわけでもありません。アドバイスとは、あなたから見たオプションや、その中から選択する際のプロセスを説明するということです。決断は彼らに任せましょう。これこそが管理権を与えるということです。
5. 失敗をすることは許されるが、そこから学びを得て、自己批判することなくその失敗が引き起こした結果を受け容れることが大切である。これも私がコーチングをしていた別のマネージャーの話ですが、彼はある時彼のスタッフから今までにやっていなかったことをやってはどうか、というアドバイスを受け、それについて間違った決断をしてしまうことを恐れ、躊躇していました。しかし決断を延期するということ自体彼が決断したことであり、このような決断が良い結果を生むことは滅多にありません。あなたと見解が異なるスタッフがいる際に下す決断は、決して延期するべきではありません。重要なことに関する決断には、それが良いものであっても、必ず反対をする人がいるものです。スタッフの見解に耳を傾けることや彼らからのアドバイスを検討することにはなんの問題もありませんが、それに対する決断を下すのは、リーダーであるあなたなのです。責任を取れるのはあなただけであり、スタッフではありません。大抵の場合あなたは正しい決断を下すでしょうが、間違うこともあるかと思います。リーダーは当たり前に経験することです。あなたのスタッフも自分がリーダーになれば、彼らが決断を下す責任を負うわけですし、彼らも間違いを犯すこともたまにはあるでしょう。でも現在は、それができるのは彼らではなくあなたなのです。
もし上に挙げたことが、リーダーとしてすでに明確にわかっていらっしゃるのであれば、部下を持つ社内のリーダー達に教えてあげて下さい。もしくは今まで知らなかったような内容のものがあれば、是非実行して頂きたいと思います。何事も経験ですし、あなたにもそうやって学ぶことが許されているのですから。