わかっていることを実践する勇気

物事のやり方を知らないということと、物事を不安なくこなすということとは別物です。 私が出会うリーダーには、自分が認識しているよりずっと沢山のことを理解している方が多くいる。そして自分が既にわかっていることを実践する自制心を持つ人こそが、大きな成功を収められるのである。 Click To Tweet

私はある部長の方にこう尋ねられたことがあります。「私がどんなことを言ったりやったりしてもやる気を出さない社員は、どうすれば良いでしょうか。」

「解雇すればいいんですよ。」というのが私の答えでした。彼女はもちろん私がそう言うであろうと言うことは、わかっていたのですが、それでもひょっとしたらそのようなことをせずとも済むような、魔法のような方法を私が示してくれるかもしれないという期待を持っていたようです。

もちろん私にはそのような魔法は使えません。そのようなことができる人など、存在しないのです。

CEOの直属の高いポジションにいた役員の方をコーチングさせて頂いたことがあるのですが、ある時彼女に「素晴らしいリーダーになる条件は何ですか。」と尋ねられました。彼女にはすでにわかっていることだったのですが。そこで私は彼女に、彼女の目で見た素晴らしいリーダーの特徴を挙げてくださいと聞き返しました。彼女が挙げた中には、「例え社員に不評を買おうとも、決断を下す能力」が入っていました。私もそれには賛成でしたので、首を縦に振りました。

「では、それが優れたリーダーの特徴であると、あなたも思っているんですね。」と彼女。

「いえ、あなたがそうおっしゃるので、私は単にあなたに賛同している、というだけです。」と私は言いました。

「そうですか。でもそのような社員に立ち向かう恐怖心を乗り越えるには、どうしたら良いのでしょうか。」

「それはやり方がわからない、というのとは違いますね。大切なのは自分が知っていることをやるだけの強さを持つことです。自制心さえ持てば良いのです!」

またこれは有名なグローバル企業の駐在CEOであるお二人の話です。彼らはそれぞれ、十分な業績を挙げていない日本事業の改革を行うという任務を負っていました。二人とも自分が何をするべきなのか、しっかり理解していました。そして、現地社員や周りのマネージャー達からは、海外ではうまく行くやり方でも日本では通用しない、と言われていました。

片方のCEOは、自分自身が持つ不安に影響されていました。自分の経験から、周りのマネージャーからのアドバイスには耳を貸さないで、まずはトップリーダーレベルの改革から手をつけ、ある程度の結果も出すことができました。しかしそれ以上のことをやることには乗り気ではありませんでした。彼の下で働くリーダーチームの中には、彼が行いたいと考えている改革に不安を感じており、その彼らの不安感が、CEOを不安にさせていたのです。 their discomfort.

そこでこのCEOは、前任者の人々にアドバイスを求めました。この前任者達は成功したとはいえない人々でしたが、皆口を揃えて、彼が日本で行おうとしている改革は上手くいかないと言いました。自分達が実行した経験があるわけでもないのに、どうしてそのような人々にアドバイスを仰いだのか、私にとっては謎ですが。彼らによると、日本の企業を変えることなど不可能なのだそうです。このCEOは自分が手始めに行った改革が上手くいったというのに、そのような見解を受け入れる気になっているようでした。

アジア地域担当の経理部長はというと、このCEOが実行したいと考えている改革に必要な分の予算を割り当てて良いものか、確信が持てずにいました。CEOには自分の予算をコントロールする権利があったのですが、それでも均衡予算ばかり気にし、彼が背負う結果責任など頭にないような経理部長のそんな意見に逆らうことに躊躇していました。最高経理責任者がビジネスの戦略的決定を全て下せるのであれば、CEOの存在理由などどこにあるのでしょうか。このような不履行、優柔不断さ、自己不信といったものが重なり、結局このCEOのビジネスの改革は滞ってしまいました。

「日本の企業で迅速な改革を行うにはどうすれば良いのでしょうか。私にはわかりません。」と彼は私に聞いてきました。

私の答えはこうです。「何をすれば良いのか、あなたは既にご存知でしょう。単にそれを確信を持って行えば良いのです。」

一方、もう一人のCEOの方はというと、やはり不安は抱えていたそうなのですが、周りのスタッフやいわゆる「日本についての専門家」からの警告を無視することにしました。彼は業績の上がらない役員やマネージャー達を容赦無く解雇しました。そしてできる社員を役職、年齢に関わらず、昇進させました。また、報酬は態度や業績に応じたものとしました。彼のことを不公平だと言う社員もいましたが、それでも優秀な社員を優遇するようにしたのです。

私はある時、この会社の人事部長に廊下で引き止められました。そこでCEOが日本の文化を無視してとんでもないことを実行していることを説明され、私からこのCEOにその辺りを理解するよう話してほしいと頼まれたのです。

私は彼女に心配無用だと言いました。このCEOがやっていることは、日本で働く優秀なCEOの方々がやっていることと同じなのですから。実際、この会社の業績は急激に改善しており、また社員のモラルも上がってきていました。ですのでCEOは間違ってはいないのです。人事部長が会社の経営を行わないのは何故か、おわかりいただけますね。

私は"discipline"(自制心)という言葉を、「例え最初に見られる影響が好ましくないものであったり、将来の見返りが不確かなものであったとしても、自分が正しいとわかっていることを遂行する能力」と定義しています。成功とは単に自分が既にわかっていることを実行するだけの自制心を持つかどうかにかかっていることが多く、また、我々は自分で思っているよりもずっと多くのことを既にわかっているものです。

さて最初に述べた役員の方の話に戻りますが、彼女は自分が既にわかっていることを行動に移す自制心を持ち合わせていました。それが自分がやるべきことだとはっきりした時、当初感じていた不安を拭い取り、それに立ち向かって行ったのです。結果、彼女は素晴らしい結果を出すことができました。

あなたにも、他の誰にでも、できることだと思われませんか。

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