Two white puzzle pieces on a chalkboard with a chalked in lightbulb. Puzzle piece plus puzzle piece equals lightbulb going off.

NIH症候群

NIH症候群(自社開発主義症候群)は別に日本特有のものではなく、世界中のどこにおいても、妥当と思われる組織の改良や変革に対する消極的な抵抗の中でも最もよく見られるもののひとつです。自社開発主義にこだわる人々は会社のためを思って警告を鳴らしているようなふりをしていますが、実のところは自分個人の利益のためにそうしているにすぎません。

あるヨーロッパ企業日本支社の最大規模を誇る営業部の部長から聞いたのですが、彼の前任者は社が世界中で取り入れていた営業のやり方を日本にも取り入れることを拒否していたのだそうです。彼が聞いたその理由とは、「日本文化は特有であるから、このやり方がここで上手く行くわけは無い」という日本人スタッフからの意見でした。そこでその会社は日本のコンサルティング会社を雇って、日本用の営業方法を取り入れる手助けをしてもらいました。日本人スタッフもこれはそれ程反対することもなく受け入れたのです。特にしっかりした根拠もなかったにも関わらず。

私はこの日本のコンサルティング会社のことをよく知っています。この会社はアジア太平洋地域のあちこちにオフィスを構え、そのクライアントの殆どは日本の会社ではなく、日本人ではない現地の社員が働いています。これは私も殆ど確信を持って言えることですが、彼らが今回上記の会社に提案した営業方法は、オーストラリアでオーストラリアにある企業のオーストラリア人スタッフによって開発されたものです。この方法のどこが日本的か、というと、使われた書類の全てが日本語に翻訳されていた、という点のみだと思います。日本人営業スタッフの中にこのことに気づいている人は全然いないようでしたが。

この会社が世界中で採用している営業方法とわざわざ日本支社のために特別に「購入した」営業方法を比較しても、それ程の違いは見られません。しかしこの先世界中の支社を含めた会社全体で営業方法を改革したり改良したりしたいと思った時、日本支社だけはどう別に扱うか、などという余計なことを考えなくてはならなくなってしまいました。その上、日本で取り入れた営業方法は会社が知的財産として保有しているわけではないので、日本支社がそれを無制限で使えるというわけでもありません。私は、この会社がこのような状況に陥ってしまったのは、日本支社の社員のせいだとは思いません。責められるべきは、日本支社のマネージャー達です。彼らは最初からこのようになることを予測し、それを防ぐべきでした。

もう何年も前、まだ20代半ば頃に、私は日本で自力で立ち上げた輸入会社を経営していました。最初のうちしばらくは、人を雇うこともなく、自分一人で何でもやっていました。初めて日本人顧客への営業に成功した時のことですが、私は請求書を出そうにも、会社の規定のフォームなど、何も用意していなかったことに気づきました。でもだからといって、請求書の発行を遅らせる気などさらさらありませんでしたから、急いで即席の請求書を自分で作成しました。そしてその請求書フォームをその後も1年程使い続けたのです。

のちに事務をやってもらう社員を何人か雇うことになりました。その際請求書フォームなどを説明し、私が自分で考えたその使い方も教えました。フォームからプロセスまで全て私が作ったことなど彼らは全然知らず、外部の日本人エキスパートに依頼してやってもらったものだと思い込んでいたようです。

やがて私は請求書の発行などといった細かい手作業の多くの自動化に着手しました。そしてその一環として、以前私が作り出したオリジナルの請求書に基づいた改良版の請求書も作りました。社員の一人はこの自動化されたシステムが気に食わず、使い方を覚えることも嫌がり、どうして自分が気に入っていた今までの手作業システムではダメなのか、と文句を言ってきました。彼女に言わせると、新しい請求書は「日本に十分合っていない」のだそうです。そして以前の請求書フォームは、日本人が作るような請求書フォームであり、きっと私がアメリカ人だから、それがわからないのだろう、とも言われました。彼女は古い請求書の様々な特徴と、それらがいかに日本に合っているか、と私に説教を続けました。実際には新しい請求書は古いものとそれ程変わっていないのに、です。

「日本人でなければ、あのようなフォームは作れません!」と彼女は古いフォームを指して、まるで日本についてのエキスパートであるかのように宣言しました。そこで無知なアメリカ人である私が、その彼女が完璧に日本的なものの例として絶賛していた古い請求書フォームの作成者であると告げられた時の彼女のショックの大きさはご想像いただけるかと思います。彼女には褒めてもらったことを感謝する、と伝えました。

自社開発主義は様々な形で表面化しますが、どの場合でもその核心にあるのは「私たちはユニークなのだから、よその物がここで通用するわけはない」という考えです。 Click To Tweet 自社開発主義は、地方や現地について知識が不十分なせいで、間違ったことをしてしまうかもしれない、という恐れにつけ込むものです。しかし実際には、自社開発主義は単にそれを主張している人々の外にある世界に対する無知を生み出しているに過ぎません。彼らの無知から影響を受けたりなどしないようにしてください。

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