社員を挑発せよ

ビジネスにおいて人々のマインドセットや態度に飛躍的な変化を起こしたいのであれば、彼らを挑発することが一番手っ取り早いやり方です。私がここでいう挑発とは、人々から故意に素直な感情を引き出すことです。うまくやりさえすれば、挑発することには何の問題もありません。気を付けて頂きたいのは、挑発的であることと、挑発者となることを混合しないこと。この二つはまるっきりの別物であり、決して挑発者となってはなりません。

挑発者が挑発を行うのは常に自分の利益のためで、他人のため、ということは全くありません。ある日本人のマネージャーから真面目な顔で、「日本の文化の問題点は、不正を助長するということだ。」と言われたことがあります。彼によると、それこそが日本で多くの企業スキャンダルが見られる理由なのだそうです。しかしそのようなことを言われても、私には何の役にも立ちません。そのような見方をすれば、私のように日本でビジネスに成功している人々は、騙されやすいか、或いは共謀者、ということになってしまいますから。私のことを彼はどちらだと思っていたのかはわかりませんが、まあそれはどうでも良いことです。彼は私へのアドバイスとしてこのようなことを言ったわけではなく、自分が過去にビジネスにおいて失敗した時のことを思い出し、それが日本の慣習のせいだと主張しようとしていただけなのですから。自分の行いを反省する代わりに。私に言わせれば、挑発者とは、機能不全に陥っているか、ひどい場合は人格障害を患っている人です。幸いなことにそのような人々はほんの一部だけで、私の書く記事をずっと読み続けてくださるような方には当てはまらないと思います。

一方で、挑発的であるというのは、他人のためになるように挑発という手段をわざと使うことです。ビジネス界の素晴らしいリーダーは、皆さん常に挑発的でいらっしゃいます。2010年には、楽天のCEOである三木谷浩史氏が、社内の公用語を英語にすることを発表しました。日本に本社があろうがなかろうが、真のグローバル化を目指すためには、それが必要なものと考えられたからです。この発表を聞いた社員や社外の日本のビジネスリーダー達は、この決断に疑問を持ち、また、かなり挑発的なものである、と受け止めました。

当時のホンダの社長は公式の場で三木谷氏のアイディアを「バカな話」と一蹴しましたし、他の人達もそのようなことは不可能だと言っていました。しかし、三木谷氏はこの英語の社内公用語化を成功させ、資生堂などの他の会社も同様のポリシーを取り入れ始めました。英語を話すように挑発されたことで、どれだけの日本人社員の状況が好転したか、考えてみて下さい。私も実際何人かの楽天の社員の方々にあったことがあるのですが、彼らの能力が向上したのは明らかでした。挑発されたことでどれだけの日本の会社がグローバルビジネスとしての能力を伸ばすことができたか、考えてみて下さい。三木谷氏が始めたことが、日本にとってどれだけ役立っているかを考えてみて下さい。リーダーが挑発的な行為をとれば、最初はひどい怒りや不満、嘲り、或いはそういったもの全てを巻き起こすかもしれませんが、それでもとても良いことなのです。

私も人を助けるため、それも迅速に助けるために、挑発を行うことがあります。おだてたり、福音を説くようなことは決してありません。外交的なことも全くやる気はありません。政治的なことは我慢できない質だし、相手に心地良く感じてもらおうなどということが大切だとも思いません。軋轢や人と対峙することも恐れていません。挑発はどんどんしますし、それを愛を持って、そして目的を持って行っています。

ですから、以前ブルームバーグのインタビューでも述べたように、「日本の企業文化など存在しない。」などと言う時、私は挑発を目的としており、それを相手のためを思って言っているのです。周りの人々全てに賛成してもらいたいとは思っていませんし、実際、全員が同意してくれたとしたら、それは多分私がしっかり挑発できていないというしるしでしょう。しかし、私が何か挑発的なことを言えば、それが相手にとって受け容れられようがどうしようが、その次に私が何を言うのか、聞きたくなる筈です。そうしないわけにはいかないですよね。

私はこれまでリーダー達をまず挑発することで、彼らの会社が様々な面で不可能だと思われていたレベルまで成長する手助けをしてきた。あなたも同じ方法で自社の社員達の成長を助けてあげることはできる筈だ。 Share on X

ご自分の会社の社員達のマインドセット、態度、そして行動様式を変えたい、それも迅速に行いたい、と思っていらっしゃるのなら、彼らが思わず立ち止まって考えてしまうようなことを、率直に話してみて下さい。反対する人や、踵を返すような人さえでてくるかもしれませんが、それでも全員が次にあなたが言おうとすることに耳を傾ける筈です。そしてあなたが次に言うことこそが最も変化の火付け役となるものなのです。心配することはありません。あなたならどのような挑発者にもならないと思います。周りの反応が悪かったからと言って落胆することもありません。どれだけ酷い感情の波も、いつかは過ぎ去り、収まっていくのですから。

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