もう随分前のことですが、私はパリに移り住んでビジネスを始め、マーケティングを手伝ってくれるフランス人女性を雇いました。まだ彼女が勤め初めの頃のこと、私たちは見込み客である大手出版社の副社長とミーティングを行いました。私はフランス語を話せはしたのですが、当時はフランス語で商談をする自信がありませんでした。そこで私は彼女にマーケティングマネージャーとして相手との話を任せたのですが、それを後悔してしまうのに時間はかかりませんでした。
私たちが提供するものに懐疑的だった副社長の懸念について、マーケティングマネージャーは丁寧に対応してくれました。しかし副社長は私たちを続けて批判し、私たちの推測を馬鹿にしました。それに対してマーケティングマネージャーは反論し、会話はどんどん白熱していくようでした。憤慨した副社長は、さらに激しい反論で切り返し、声量を上げ、目を見開き、ますます反抗的な罵詈雑言を浴びせかけてきました。少なくとも私の目にはそのように写ったのです。マーケティングマネージャーも同様な言葉やトーンで言い返すのを見て、口論が頂点に達したと感じられたその時、副社長が話すのを止めました。そして呆れたように手を振る彼を見て、私は会議は終わったのだと悟りました。
ビルを出て通りを歩きながら、私はショック状態に陥っていました。そして採用したばかりの彼女に解雇を告げる方法を考えなくては、とまで思っていたその時、彼女がこう言ったのです
「うまくいったわね!」という彼女の声には、皮肉のかけらもありませんでした。私は立ち止まり、彼女を見てこう言いました
「どういうことですか?あれはひどかった!あなたたち2人は、お互いに対して怒鳴り合っていたじゃないですか。」
「スティーブ、それは誤解ですよ。あれは彼が興味を持ったということなんです。」と彼女はニヤリと笑いました。
そのようなことは私には信じられず、とりあえず歩き続けました。しかし彼女の言うことは本当だったのです。一週間後、私たちはその会社との契約締結に成功しました。
人の行動を見ただけで、その姿勢まで推測してはいけません。
それから何年も経ってから、私は日本でコンサルティングビジネスを始めました。その数年後、日本で大規模な事業を展開するフランス企業のグローバルCEOに雇っていただき、フランスでグローバル戦略セッションを行う機会がありました。参加者の半分はフランス人、もう半分は日本人で、この2つのグループ間で議論が出てくるのは予想がつきました。
最初のセッションの冒頭、グローバルCEOが他の誰からも聞いたことのないこのような言葉を使って、私をグループに紹介してくれました。
「私がスティーブを好きな一番の理由は、彼がアメリカ人であることです。スティーブは日本人でもフランス人でもないけれど、両者を理解してくれています。」
それは嬉しい褒め言葉でしたが、フランス人と日本人の両方を理解することは最重要事項ではありません。真の国際ビジネス能力とは、事前に理解することではなく、その場その場で素早く学ぶことです。
私の知る最も有能な国際ビジネスリーダーの方々は、ビジネスの相手となる人々の文化や言語を殆ど、あるいはまったく理解していないにもかかわらず、成功を収めています。彼らは現場でビジネスを行いながら学んでいるのです。
そのフランスでのグローバル戦略セッションで、私はフランス人について学んだことを日本人にコーチングしました。フランス人が論争するのは、不賛成、怒り、意見の相違などのせいであるとすぐ思ってしまわないこと。メリットのあるアイディアであれば、かなりの議論をしてもそれで潰されることはありませんから。対立はしばしば関心があるということの表れであり、アイディアをストレステストする一つの方法として使われているのです。
フランス人には、日本人について学んだことをコーチングしました。日本人の沈黙を、無関心、不賛成、理解不足のサインだと決めつけないこと。日本人の会話において、考える時間を与えるために間を置くことは、珍しいことでも気まずいことでもないのです。やたらこちらから話そうとせず、相手に考える時間を与えましょう。
しかし、私からの最も重要なアドバイスは、国や文化に関係なく、いつでも、どこでも、誰とでも通用するものです。
それは、自分が目にした行動だけから相手の態度を決めつけてしまってはいけないということです。常に相手が何を考えているのか、そしてその理由は何かを、聞きましょう。その答えは、あなたに取って予想もしていなかったものかもしれません。これは、最も成功している国際的ビジネスリーダーが常に行っていることです。あなたは実行していますか。