先日、私の顧客であるあるCEOが解雇されました。自分には非はなかったと彼は主張しています。彼の個人の業績もビジネスの業績も、ずっと素晴らしいものでした。ところが、会社の将来について話し合うという名目で日本で彼と面会した地域担当の副社長は、代わりに彼を解雇すると告げたのです。その理由を尋ねたところ、「新しい才能のある社員を入れ、人員を減らすため」という意味のはっきりしない答えが返ってきたのだそうです。
このCEOは、後になって自分以外にも同じような目にあった人々がいることを知りました。副社長は他の上級管理職たちも解雇して回っていたのです。解雇された全員に共通していたのは、全員50歳以上だったということ。年齢が解雇の理由となっていたのは明らかでした。
知恵というものは、お金を出せば買えるというものではありませんし、誰かを訓練すれば身につけてもらえるというものでもありません。それは経験を通して蓄積された知識のみから得られるものです。人は行動し、生活し、失敗や成功をすることから学びを得ます。本を読むだけで自転車の乗り方を学ぶ人などいません。
優れた人材を年齢を理由に解雇することは、組織からその知恵を抜き取ってしまうようなものです。人を簡単に交換できる商品のように見るタイプの人事担当者に言わせると、高給料取りであるシニアポジションの社員を解雇して、代わりに安価な若手社員を雇うことは、コスト削減につながるのだそうです。
それにも一理あるかもしれません。しかし皆さん、最近ご自分が下したビジネスの決定事項で失敗に終わったものを思い返してください。その決定のせいでビジネスが被った被害はどのくらいでしたか。
以前私は、危機に面していた企業に臨時CEOを送り込むビジネスを行っている会社について読んだことがあります。この会社は経験豊富なCEOのリストを持っていました。そのリストに入っていたあるCEOのクライアント企業での仕事初日はちょうど給料日だったのですが、その日の朝午前9時というまだ早い時間に早速彼が直面した危機事項は、その企業には社員の給料も払えないということでした。
そのような問題が立ちはだかった時に必要なのは、冷静な判断力です。誰もが持っている能力ではありません。
数年前のことですが、世界的に知られている米国のグローバル企業CEOが、優れた経歴を持つ40代の新しいCEOを日本支社のトップに迎え入れ、大々的な報道イベントが開かれ、話題になりました。当時の日本のビジネスの不安定さは、さほど大きいものとも例外的なものとも思われませんでした。
しかし、家柄も華やかさも派手な演出も知恵を生み出してはくれません。その日本市場の不安定さは、新しいCEOにとっては大きすぎるものでした。彼は数か月後には出勤しなくなり、そのまま辞めてしまったのです。前触れもなく、辞表を出すこともなく、助けを求める声を上げることもないまま。まるで致命傷を与えてくる敵に直面してしまったかのように、恐怖に怯えて動けなくなってしまったのです。
上司から批判的なコメントを受け取ったから、という理由で死んでしまった人がいるなど、私は聞いたことがありません。
以前私は、成功した起業家の方に、ストレスや曖昧さ、不確かさといったことに、どのように対処しているかを聞いたことがあります。
「ジャングルで追われながら撃たれることほどに比べれば、どうということはありませんよ。」と彼は冷静に説明してくれました。この彼の以前の「仕事」は、ベトナム戦争中、ラオスでのCIAエージェントだったのです。
いわゆる知恵ではなくとも、経験というものは確かに視野を広げてくれます。
では、最初に話した50歳以上という理由で解雇されたCEOについてはどうでしょうか? 彼はどうせ2年後には引退してポルトガルに移り住む予定だったんだ、と私に話してくれました。
「本当ですか。」と私は彼に言いました。「ポルトガルでの生活は3週間くらいは楽しいかもしれませんが、それ以降はあなたにとって退屈になってくるのではないでしょうか。それは人生を楽しんでいるというより、25年間死を待つ生活のように聞こえますが。」と私は続けました。
1955年の日本男性の平均寿命は63歳でしたが、それが今では85歳です。社会の習慣が何であれ、私たちは静かにいなくなってしまうために存在しているわけではありません。年齢はあなたが自分自身でそう思い込まない限り、障害ではありません。
- 著名な日本の芸術家草間彌生氏は、現在93歳。まだまだ芸術を創り続けています。
- 作家、俳優、コメディアン、テレビパーソナリティの北野武氏は、76歳。すべてのエリアでずっと活躍しています。
- パラリンピック自転車競技の杉浦恵子選手は、2021年に日本が金メダルを獲得した際50歳で、史上最年長のメダリストとなりました。最初は日本の常識では高齢と思われるこの歳でパラリンピックに出ることを諦めるつもりだったそうですが、コーチの説得により、参加を決めたといいます。
- 京セラの創業者稲盛和夫氏は、2010年に78歳で日本航空のCEOに就任し、破産危機にあった会社を立ち直らせることに成功しました。
- 小森重孝氏は、2003年に64歳で富士フイルムのCEOに就任し、主要製品であるカメラフィルムの市場がデジタル写真の台頭によって崩壊した後、そのビジネスを復興させました。
- アメリカの著名作家コーマック・マッカーシー氏は、89歳で今も執筆を続けています。(この記事の英語タイトル”No Country for Old Men”は、彼の作品へのオマージュでもあります。)