何をするにせよ周りからの同意を得てから行う、というのは理論上では良いことかもしれませんが、だからといって行動を起こす前に同意を得なければならない、ということはありません。私が存じ上げる素晴らしいリーダーの方々も、同意を得られないからといって、そのせいで物事の実行を遅らせるなどということはしません。逆に、まず実行してからその成果を見せることで、同意を得ようとします。結局のところ、実際の成果を経験してもらう事ほど、同意を得るための説得に役立つものはないのですから。
私のクライアントの企業での話ですが、CEOはある時、その時点で日本での業績の半分以上に貢献していたビジネスラインをストップするという決断を下しました。社は戦略的且つ高価値な独自の技術に基づいた商品を持っていたのですが、その別のビジネスラインも扱っていたせいで、そちらに十分な力を注ぐことができないでいる、と感じていたからです。彼の決断は正しいものだったのですが、営業部長を始め、全ての営業担当者はその決断に怯え、そのようなことをすれば日本でのビジネス業績が落ちてしまう、と訴えました。彼らは全て感情的になっていたので、説明してわかってもらえるような状況ではありませんでした。
それでもCEOの決意が揺るぐことはありませんでした。みんなからの賛同を得るために自分の決断を実行に移すことを遅らせるようなことはせず、変革に踏み切ったのです。営業収入は半分以下に減ってしまいましたが、それは問題とはなりませんでした。というのも、利益の方は2倍以上となったからです。営業チームが恐れていたようなことが起きることもなく、彼らも結果を目の前にして、結局変革に賛同することとなったのです。
マインドセットとは、単に人々が事実であると信じていることに過ぎません。マンドセットを変えそれから賛同を得れば人々の態度も変わり、その結果として成功を経験することとなる、と思われています。つまりマインドセットの変化は態度の変化に繋がる、という考え方です。
しかしその逆の状況も実はあり得るのです。先に態度を変えさせ成功を経験して貰えば、彼らのマインドセットも変わり、結果賛同してくれる、という状態です。つまり態度の変化がマインドセットの変化を起こすということもあるのです。
上の図を見て下さい。成功の確率は態度の向上に比例します。態度が向上した人の成功の度合いは、実際の所当初感じられるものより大きいものです。態度が変われば、成功度は経験とともに向上して行きます。賛同は、マインドセットと態度が交わる点で起こります。態度の向上の結果としてもたらされる成功、というのは誰でも想像できることでしょう。
賛同点以前を見ると、マインドセットより態度のようがウエイトが高いのがわかります。しかし賛同点を過ぎると、これが逆になります。ここでは、態度がさらに向上すればより大きな成功が期待できると思われるために、マインドセットが態度を上回るわけです。
私がお手伝いさせていたある営業チームの例ですが、彼らはそれまでカタログを見せたり、商品のセールスをしたり、代理店との交渉を行ったり、といったその場だけのための営業を行っており、業績も十分とは言えませんでした。そこで私がエコノミックバイヤーのみを対象に、商品を売ろうとするのではなく、相手のビジネスについて質問をし、価値を生み出せるようなチャンスを見つけてから商品の売り込みを行う、というコンサルティング的な営業アプローチを行って業績を上げる方法を紹介したのですが、それでも彼らの大半はそういったやり方に対して懐疑的でした。中にはやり方を変えることで拒絶されたり失敗したりすることを恐れる社員もいました。つまり私は殆ど賛同を得られることができなかった訳です。
それでも私は、何とか彼らにこの新しいやり方を実験的に試してその結果を見てもらうことを納得してもらいました。そしてこのやり方は成功し、業績も上がったのです。そう、彼らは成功を経験したのです。
間もなく社員から賛同を得ることなど問題ではなくなり、同時にこの新しいやり方はチームにしっかり受け容れられ、それをさらに改善していけば、結果ももっと良いものになるとまで感じられるようになりました。そして彼らは得た経験を元に、新しいセールスツールやテクニックを自分たちで開発し、実際に業績は上がり続けています。
どれだけ理由を並べ立てようが、懐疑的であったり大胆な改革を恐れてさえいるような人々の気持ちを変えることはできません。それがいかに理にかなっていないことでもそうですし、また改革を実現するために、モチベーションを上げるためのスピーチのプロを雇ったり、おしゃれな会場を使ったりしてキャンペーンを行っても、無理な話です。人々は心情に基づいて態度を変えるものです。論理に基づいているわけではありません。実際の成功というのは心理的にパワフルな体験となり、それはマインドセットを変えるのにもっとも説得力のある方法なのです。
大胆な改革を行う前にまず賛同を得ようと努力したりすべきではない。 Share on Xまずは態度を変えてもらうことに取り組みましょう。実験的にやって欲しい、と頼むことが必要になるかもしれませんが、その程度であれば大抵の人は納得してくれます。甘い言葉で釣ったって良いのです。どうしても必要となれば、改革を断行しても構いません。賛同を得る必要などありません。賛同ではなく協力を求めるのです。成功さえ経験すれば、反対していた人々の気持ちも変わるでしょう。
私の意見に賛同されましたでしょうか。賛成されなくても関係ありません。とにかく私のアドバイスを実行してみて下さい。その結果持たされる成功こそが重要なものであり、その成功をあなたは掴むことができるのですから。